心の疲れは「食事」でリセット! ストレスに強い脳をつくる栄養学 

私たちは日々の生活で多くのストレスにさらされています。
ストレスのせいで食欲がなくなったり、逆にやけ食いしてしまったりと、ストレスと食生活には密接な関係があります。
実は、ストレスから心身を守るためには「ふだんの食事」が強力な武器になります。
心身に不調をきたす前に食生活を見直すことで、ストレスに強い脳をつくることができるのです。最新の「腸脳相関」や脳科学の知見を交えながら、食事とストレスの関係について解説します。
1. ストレスで「食べすぎる・食べられない」理由
ストレスを受けたとき、私たちの身体は自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスによって反応を変えます。
急性ストレスは食欲を抑える
重要なプレゼンなど緊張する場面で、心臓がドキドキして胃がキュッとなった経験はありませんか?
これは交感神経が働き、身体が「戦闘態勢」に入っているためです。
このような場面では消化活動が後回しにされるため、食欲はなくなり、のんびりと物を食べることは考えられなくなります。
慢性ストレスが「やけ食い」と「脂肪蓄積」を招く
一方、職場の上司にいつも気を遣うなど、慢性的なストレスにさらされていると、脳は「常に危険が迫っている」と勘違いし、ストレスホルモン(コルチゾール)を放出し続けます。
これにより、身体は長期戦に備えてエネルギー(脂肪)を溜め込もうとします。
ストレスを感じると甘い物や脂っこい物を無性に食べたくなるのは、決してあなたの意志が弱いからではありません。
これは脳の誤作動によるものです。このメカニズムについて詳しくは、『「甘いものが止まらない」のは意志が弱いからじゃない! 脳とお腹の意外な関係』をご覧ください。
2. 「セロトニン」と「腸脳相関」で心を整える
心のバランスを保つために欠かせないのが「セロトニン」という神経伝達物質です。
セロトニンは、イライラや不安を引き起こす他の神経伝達物質の暴走を抑え、心を穏やかに保つ働きをします。不足すると、うつ病や不眠症などの不調をきたしやすくなります。
セロトニンの材料「トリプトファン」を摂る
セロトニンの材料となるのが「トリプトファン」というアミノ酸です。
トリプトファンは体内で作り出すことができないため、食事から摂取する必要があります。
- 多く含む食品: バナナ、豆乳、牛乳、ヨーグルト、チーズ、納豆などの大豆製品、肉類、赤身の魚、たらこ、白米、そばなど。
腸内環境が脳のストレス耐性を決める
近年注目されているのが「腸脳相関( Gut-Brain Axis )」です。
体内のセロトニンの約90%は腸で作られていますが、実はこの「腸で作られたセロトニン」は脳のバリア(血液脳関門)を通過できないため、直接脳へ届いてストレスを和らげるわけではありません。
しかし、それでも腸内環境を整えることは非常に重要です。
腸の働きが良いと、脳内でセロトニンをつくるための「材料(トリプトファンなど)」が効率よく脳へ運ばれます。さらに、腸から自律神経(迷走神経)を通じて脳へ直接リラックスのサインが送られ、結果的に脳内でのセロトニン分泌を助ける働きがあるからです。
食物繊維や発酵食品で腸内環境を整えることは、ストレスに強い脳をつくるための重要な土台になります。
食事のタイミングや腸へのアプローチについては、『カギは“腸と時間”にあった! 「秋の味覚」で脳を若返らせる5つの食材と最強の食べ方』をご参照ください。
食事以外でセロトニンを増やす方法として、「朝に太陽の光を浴びる」「ウォーキングなどのリズミカルな運動をする」「食事をよく噛む」「家族やペットとのスキンシップ」なども効果的です。
3. 過食を防いで脳(海馬)を守る「BDNF」
強いストレスが長期にわたると、記憶や学習をつかさどる脳の「海馬」がダメージを受けます。
この海馬の修復や、神経細胞の成長に不可欠なのが「BDNF(脳由来神経栄養因子)」と呼ばれるタンパク質です。
最新の研究では、食生活の乱れ(過食)がBDNFを減少させることが分かっています。
そして厄介なことに、BDNFが減るとさらに過食に走りやすくなるという「負のループ」に陥ってしまいます。ストレス発散のために食べまくることは、結果的に自らの脳を傷つける行為になりかねません。
BDNFを増やして海馬を守る方法
薬に頼らず日常のなかでBDNFを増やす効果的なアプローチは以下の3つです。
- 有酸素運動:
歩くなどの適度な運動はBDNFを強力に分泌させます。
『なぜ歩くだけで記憶力が戻る? 50代から脳細胞を育てる「BDNF」の科学』もあわせてお読みください。 - 適切な食生活:
暴飲暴食を避け、腹八分目を心がけること。 - 頭を使うこと:
新しいことを学ぶなどの知的な刺激。
4. お酒でストレスは「発散」されない
「イライラするから飲んで発散しよう」と考える方は多いですが、医学的にはお酒にストレスを発散する効果はありません。
ネズミを使った実験で、アルコールを摂取すると大脳皮質のストレスに反応する遺伝子(zif268)が活動しなくなることが確認されています。これは「ストレスを感じにくくなっている」という状態です。
しかし、無意識の領域である「視床下部」の遺伝子はしっかり活動しており、身体自体は強いストレスを受け続けています。
つまり、お酒は「ストレスを感じないように脳を麻痺させているだけ」であり、根本的な解消にはなっていない点に注意が必要です。
ストレスによる食生活の乱れは、睡眠の質も著しく低下させます。
そして睡眠不足は自律神経をさらに乱し、ストレスへの耐性を奪っていきます。
この悪循環の恐ろしさについては、『ストレスに弱い理由は「睡眠不足」かも? 脳で起きている負のループと断ち切り方』で解説しています。
ストイックになりすぎて食事制限自体がストレスになっては本末転倒ですが、まずは「トリプトファンを含む食材を一品増やす」「腸に良いものを食べる」「休肝日を作る」など、無理のない範囲で毎日の食事を見直してみてください。
参考文献
- Yano, J. M., et al. (2015). Indigenous bacteria from the gut microbiota regulate host serotonin biosynthesis. Cell.(腸内細菌とセロトニン合成に関する研究)
- Cryan, J. F., et al. (2019). The microbiota-gut-brain axis. Physiological Reviews.(腸脳相関に関する包括的レビュー)
- Araya, A. V., et al. (2014). Overweight patients with binge eating disorder have decreased levels of brain-derived neurotrophic factor (BDNF). Obesity.(過食とBDNF低下の関連についての研究)

