糖尿病と睡眠の「切っても切れない」深い関係〜悪循環を断ち切るために〜

こんにちは、ヘテロクリニックの木ノ本です。
今回は「睡眠と生活習慣病」をテーマに、
生活習慣病の代表格である糖尿病をとり上げます。
実は近年、
「睡眠障害があると糖尿病になりやすく、糖尿病があると睡眠障害をきたしやすい」
という、双方向の悪循環(負のスパイラル)があることが分かっています。
- 不眠症の方の糖尿病罹患率:13.1%(不眠症でない方は5%)
- 糖尿病の方の不眠症発症率:47.4%(糖尿病でない方は23.8%)
このように、両者には切っても切れない深い関係があります。
なぜこのようなことが起きるのか、詳しく解説していきましょう。
参考)Ogilvie RP, Patel SR : The epidemiology of sleep and diabetes. Curr Diab Rep 18 : 82, 2018.
1. 糖尿病が「睡眠の質」を悪化させる理由
糖尿病になると、身体的な不調から睡眠が妨げられやすくなります。
具体的には以下の3つの要因が挙げられます。
- 高血糖による中途覚醒(多尿と口渇の悪循環)
血糖値が高い状態が続くと、尿の中にたくさんの糖が排出されます。
このとき、糖は周りの水分も道連れにして尿として排出してしまうため、
尿の量が異常に増えてしまいます(これを浸透圧利尿と呼びます)。
その結果、夜中もトイレに行きたくなる(夜間頻尿)だけでなく、
体が水分不足(脱水)に陥るため強い喉の渇きを感じ、
夜中に起きて水をたくさん飲んでしまう…という悪循環に陥り、何度も目が覚めてしまいます。 - 合併症による痛み(神経障害):
糖尿病の合併症である「末梢神経障害」により、
足のしびれや痛みが生じ、寝付きが悪くなります。 - 自律神経の乱れ:
糖尿病によるストレスや不安から「交感神経(興奮モード)」が優位になり、
リラックスして眠ることが難しくなります。
さらに大きな問題として、
糖尿病は以下の2つの睡眠障害を合併しやすいことがわかっています。
① 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(SAS)
睡眠中に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりして体が低酸素状態になる病気です。
周囲からいびきを指摘されたり、日中に強い眠気を感じたりするのが特徴です。
- 肥満との関係:
SASと糖尿病の共通要因は「肥満」です。
首周りや気道に脂肪がつくと、空気の通り道が狭くなります。
- 日本人は要注意:
欧米人に比べて日本人はもともとあごが小さく気道が狭いため、
少し太っただけでもSASを発症しやすいという特徴があります。
重症のSAS患者の約15%が糖尿病を合併しているという報告もあります。
参考)Association of sleep apnea and type II diabetes: a population-based study. Reichmuth KJ, et al: Am J Respir Crit Care Med 2005; 172(12): 1590-1595.
② レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)
ベッドに入ってじっとしていると、
脚の奥に「むずむずする」「虫が這うような」不快感が現れ、
脚を動かしたくてたまらなくなる病気です。
- 神経障害との関係:
2型糖尿病患者の約18〜45%が発症しているとされ、
その背景には「糖尿病性ニューロパチー(神経障害)」が深く関わっていると考えられています。
2. 「睡眠不足」が糖尿病を引き起こす・悪化させる理由
逆に、睡眠不足が続くと糖尿病のリスクはどうなるのでしょうか?
最新の研究では、睡眠時間が短いと
血糖値をコントロールするホルモンのバランスが大きく崩れることがわかっています。
睡眠不足で乱れる3つのホルモン
| ホルモン名 | 正常な働き | 睡眠不足になるとどうなる? |
|---|---|---|
| インスリン | 血糖値を下げる | 効きが悪くなる(インスリン抵抗性の悪化)。 正常な人に比べ抵抗性が82%高かったという報告も。 |
| コルチゾール | ストレスに対抗する | 分泌が過剰になり、交感神経を刺激してさらに血糖値を上げてしまう。 |
| 食欲ホルモン (レプチン / グレリン) |
食欲をコントロールする | 満腹ホルモン(レプチン)が減り、食欲増進ホルモン(グレリン)が増加。 無性に炭水化物や甘いものが食べたくなる。 |
実際、コロンビア大学の調査(約8,000人対象)では、
睡眠時間が7〜9時間の人に比べ、
5時間の人は50%、4時間以下の人は73%も肥満率が高かったと報告されています。
睡眠時間が短いと、スナック菓子の摂取量が30%増えるというデータもあります。
参考)
Gangwisch JE et. al. Inadequate sleep as a risk factor for obesity:Analyses of the NHANES I. SLEEP 2005;28:1289-96.
Spiegel K et. al. Brief Communication:Sleep Curtailment in Healthy Young Men Is Associated with Decreased Leptin Levels, Elevated Ghrelin Levels, and Increased Hunger and Appetite. Ann lntern Med 2004;141:846-50.
最新知見:睡眠と「血糖トレンド」
最近はCGM(持続血糖測定器)の普及により、
24時間の血糖値の動き(血糖トレンド)が見える化されるようになりました。
これを見ると、「よく眠れなかった翌日は、食後の血糖値が急激に跳ね上がりやすい(スパイクを起こしやすい)」ことがはっきりと確認できます。
3. 悪循環を断ち切るために今日からできること
「糖尿病だから眠れない」
「眠れないから血糖値が上がる」
という負のスパイラルを断ち切るためには、
まず睡眠の質を見直すことが治療の第一歩になります。
お薬に頼る前に、以下の「睡眠衛生」の見直しから始めてみましょう。
- リラックスの習慣:
大きく息を吸ってゆっくり吐く深呼吸で、副交感神経(リラックスモード)を刺激しましょう。
- 嗜好品を控える:
就寝前のアルコール、タバコ、カフェインは睡眠を浅くする最大の敵です。
- 適度な運動と入浴:
夕方〜夜にかけての軽い運動や、就寝90分前の入浴(シャワーだけでなく湯船に浸かる)が効果的です。
- 脚の不快感には:
マッサージやストレッチを行うことで、むずむず感が和らぐことがあります。
いびきがひどい、昼間の眠気が強い、脚がむずむずして眠れないなどの症状がある場合は、
我慢せずに早めに受診を。
睡眠の改善が、糖尿病治療の大きなブレイクスルーになるかもしれません。

