認知症の家族が抱える問題
認知症の家族の方が抱える問題というのは、多岐にわたります。
当事者になってみないとわからないものも多いでしょう。
どのような問題が生じるのか理解するだけでも心の準備ができますし、
実際に問題を抱えている人にとっては解決の糸口につながるかもしれません。
認知症の方やその家族を見ていて思うのは、
決して一人で抱え込まないことです。
大変な介護の甲冑にいるとまじめな人ほど自分のことは後回しになってしまいます。
ただ、ご自身が体調を崩されたり、倒れてしまっては、それから介護することはできません。
当たり前のことを言っているように感じるかもしれませんが、
その当事者になるとそれがなかなか難しかったりもします。
情緒的な負担
認知症になると徐々に以前の自分が知っている人とは変わってしまうことがあります。
自分の大切な家族が徐々にそういう状態になっていくことに対して
何とも言えない喪失感や悲しみに襲われます。
認知症が進行すると、家族を見てもわからなくなることがあります。
大切な人が自分のことを分からなくなってしまったときの衝撃や寂しさは頭では理解していても実際経験するとつらいものです。
それだけでなく、徐々に症状が進んでいく家族に対して、何もできない無力感を感じるかもしれません。
加えて、認知症の介護というのは365日24時間休みなく必要になることもあります。
自分の自由な時間は削られ、睡眠が少なくなり、体力的にも厳しいものがあります。
認知症の方は忘れてしまっているので何回説明してもわかってくれないということもあるでしょう。
そうなってくるとどんな人であってもイライラするものです。
それでも、そういう自分に罪悪感を抱くこともあるかもしれません。
施設へ入所させることに対しても後ろめたい気持ちがでてくることもありえます。
また、認知症の症状というのは身近な人に強く出るという厄介な性質があります。
そのため周りの人(遠くの親戚)に介護の大変さを理解してもらえないという問題もよく生じてきます。
お金や手は出さないけれど口は出す人たちに気持ちを乱されるということが起きがちです。
最近は認知症の介護について情報があふれています。
良かれと思ってしたアドバイスが介護者をさらに追い詰めるケースもあります。
自分では割り切ったつもりでも、心に引っ掛かって知らずにストレスになっているかもしれません。
介護のストレス
先ほども少し触れましたが、
認知症の介護というのは、365日、24時間必要となる場合もあります。
夜も眠れない、目を離せない、本人に何回説明してもわかってもらえない
という状況もあるでしょう。
子育てとの大きな違いは、子育てはどんどん成長して手を離れていくのに対して、
認知症介護の場合はどんどん一人でできないことが増えていくいうことです。
子育ては大変ながらも一つ一つできることに喜びを見いだせるかもしれません。
早く手が離れて一人前になることを望むのも当然のことです。
それに対して介護の終わりを望むことは、認知症の方の死に結びつきます。
大切な人であるほど心の片隅にそういう気持ちが出てきたことに罪悪感を感じるかもしれません。
終わりの見えない介護の疲労やストレスがいかに大きいのか想像に難くありませんが、
意外とそのなかにいると必死すぎてそのストレスを無視しがちです。
コミュニケーションの困難さ
認知症の人は徐々に会話をすることが難しくなります。
その原因となるものは大きく分けて4つあります。
1つめは、認知症の人は進行してくると適切な言葉を見つけたり、言葉を理解することが難しくなってきます。そのため、相手にうまく自分のことが伝えられずイライラしたりすることがあります。
こちらのブログ記事も参考にしてください(認知症の症状 その6 中核症状 失語症)
2つめは、記憶障害です。認知症では、特に短期記憶が障害されやすく、会話中何を話していたのか分からなくなったり、過去に話した内容を覚えていなかったりといった症状が出てきます。
こちらのブログ記事も参考にしてください(認知症の症状 その2 中核症状 記憶障害)
3つめは、情緒変化です。認知症の人の中には感情のコントロールが難しくなり、予想もしないところで怒りや悲しみなどを訴え感情的になることがあります。
4つめは、行動の問題です。認知症の人は時に攻撃的になったり、徘徊したり、不穏になったりします。それがコミュニケーションを複雑化し、介護者のストレスを増す結果とな
経済的問題
認知症の検査費用が1回4000~2万円程度、通院による医療費が月額3万9600円、
介護費用は在宅介護が年額約219万円、施設介護が年額約353万円との推計があります(*慶應義塾大学医学部・厚生労働科学研究共同研究グループによる調査)。
また、住宅改造や介護用ベッドの購入など一時的にかかった費用は約51万円、月々の介護費用は7万5600円だそうです。
介護にかかる労働力・時間だけでなく、経済的にもかなり負担の大きなものになってきます。
社会的孤立
認知症の家族が社会的孤立を経験することは珍しくありません。
以下の要因が、この孤立感を引き起こす可能性があります:
- 時間とエネルギーの制約: 認知症の方の介護には時間がかかり、精神的にも肉体的にも疲れるものです。そのため、介護者は他の社会活動や交流から遠ざかることが多くなります。
- 理解の欠如: 周囲の人々が認知症の影響を完全に理解していない場合、家族は支援が不十分であると感じることがあります。この理解の欠如は、家族が孤立感を感じる原因となることがあります。
- 関係の変化: 認知症が進行してくると認知症の方と自分との関係が変わってしまい、以前のような交流や活動が困難になることがあります。これは家族にとって大きなストレス源となり、社会的な環境から遠ざかる一因となることがあります。
- スティグマと偏見: スティグマというのは、他者や社会集団によって個人に押し付けられたネガティブなレッテルのことです。
認知症のスティグマに関しては、こちらの記事も参考にしてください(https://www.kitasato-u.ac.jp/khp/ninchisyo/column/colmun1909.html)
認知症に対する社会的なスティグマや偏見は、家族が他の人との交流を避ける理由となることがあります。これは、他人からの否定的な判断や理解の欠如を恐れるためです。
このような孤立を克服するためには、以下のような支援が有効です:
- サポートグループの利用: 認知症の家族のためのサポートグループに参加することで、同じ経験をしている他の人々とつながり、経験や情報を共有することができます。
- 社会的ネットワークの活用: 友人、親戚、地域社会のメンバーなどの既存の社会的ネットワークを活用して、感情的なサポートや実際の援助を求めることが大切です。
- 公的な支援サービスの利用: 地域社会のリソースや公的な支援サービスを利用することで、介護の負担を軽減し、社会的活動に参加する時間を作ることができます。
- 教育と啓発活動: 認知症に関する知識を深め、周囲の人々に認知症の理解を促すことで、偏見やスティグマを減少させ、より支援的な環境を築くことができます。
これらの取り組みにより、認知症の家族が社会的に孤立することなく、必要な支援とつながりを維持できるようになります。
法的・倫理的問題
認知症の家族が直面する法的・倫理的問題は、患者の意思決定能力の問題、介護の限界や生命維持治療に関する決断など多岐にわたり、難しい選択を迫られることがあります。
時には、家族間で意見が分かれるということも出てきます。
主なものについてお伝えしていきます。
- 意思決定: 認知症になると理解力・判断力が低下し、ご自身のことを自分で決めるということが難しくなってきます。そうすると家族の中の誰が医療や財務などの重要な決定を行うべきかという問題を引き起こします。
ときには、ご本人自身が自分の状態を十分認識できておらず、ご本人にとっても不利益になるのが明白であるにもかかわらず、ご自身で判断したいということを主張されることもあります。
患者の自己決定権と保護の必要性のバランスをどうとるかは、重要な倫理的課題です。 - 後見人制度:認知症患者の法的権利を代行するために、後見人や保護者を指定する必要が生じることがあります。適切な後見人を選定し、その権力をどのように監督するかは法的にも倫理的にも重要な問題です。
- プライバシーと機密性: 患者の医療情報や個人的な事情をどのように扱うかは、プライバシーの保護と必要な情報共有の間でバランスをとる必要があります。
- 生命維持治療と尊厳死: 認知症が進行し、患者が自己の医療に関する意思を表明できなくなった場合、家族がその代わりに判断することが必要になってきます。
場合によっては、生命維持治療を続けるかどうか、または尊厳死を選択するかどうかを決めなければならないこともあります。 - 遺言と財産管理: 認知症患者が遺言を作成したり、財産を管理したりする能力が疑問視されることがあり、これが遺産相続の論争につながることがあります。
- 介護者の権利と責任: 介護者は患者の代わりに日常的な決定を行うことが多いですが、その決定が患者の利益に合致しているかどうかは常に問われるべきです。介護者の権利と責任の範囲をどう定義するかは、法的・倫理的な考慮が必要です。
これらの問題に対処するには、法律専門家や倫理専門家の助けを借りて、患者の権利と福祉を最前面に置くことが重要です。また、事前指示書の作成や家族間のコミュニケーションの促進など、前もって計画を立てることも有効な手段です。