認知症の「話せない・できない・わからない」はどうして? 失語・失行・失認の違いと家族が楽になる関わり方 

以前より口数が減った、服をうまく着られない、目の前の道具が何かわからない。

ご家族のそんな姿を見て、
「やる気がなくなったの?」「注意すればできるはずなのに」と戸惑うことはありませんか。

こうした変化の背景には、
「失語・失行・失認」と呼ばれる認知症の中核症状が関係していることが多くあります。

本人は決して怠けているわけではなく、
脳の働き方の変化によって、今まで通りに言葉や体を扱えなくなり、
自分自身が一番混乱し不安を抱えています。

この記事では、単に「できなくなった」という事実に目を向けるのではなく、
「なぜ、できなくなってしまったのか(脳の中で何が起きているのか)」 という視点から、
日常の困りごとの背景と、お互いが安心できる関わり方のヒントを整理していきます。

 

まず押さえたい「中核症状」という考え方

認知症の症状は、
脳の細胞の変化によって直接起こる「中核症状」と、
それに伴う不安や環境とのミスマッチから生じる「行動・心理症状(BPSD)」に分けられます。

失語・失行・失認はすべて「中核症状」です。

つまり、性格の変化やわがままではなく、
脳の「言葉を扱う」「動作を組み立てる」「見て理解する」
といった機能そのものが低下したり、
それらがうまく連携できなくなったりした結果として起きています。

「ふざけている」「わざとやらない」ように見えてしまうこともありますが、
本人の中では、一生懸命に今の世界を理解しようと必死に戦っている状態なのです。

 

失語・失行・失認の違いと「逆効果になりやすい関わり」

同じ「できない」に見えても、脳の中で起きているエラーは異なります。

症状の違いと、家族が焦りからついやってしまいがちな「NGな対応」を整理しました。

症状名 脳の中で起きていること 日常で見られる変化 逆効果になりやすい関わり(NG例)
失語
(言葉の障害)
言葉を使う・理解する回路が働きにくくなる ・話が噛み合わない
・言葉が出ず黙り込む
・新聞やTVを見なくなる
正論・早口・問い詰め
「さっきも言ったでしょ」「何が言いたいの?」と早口で急かすと、本人の処理能力を超えてしまい、怒りや引きこもりにつながります。
失行
(動作の障害)
目的はわかるのに、動作の手順や体の使い方がつながらない ・服の袖に手を通せない
・お箸や歯ブラシをうまく使えない
急かす・手順を一気に言う
「早くして」「違う、こうやるの」と指示を重ねると、次に何をすべきか余計にわからなくなり、動きが止まってしまいます。
失認
(認識の障害)
目や耳は正常でも、見聞きしたものが「何か」認識できない ・目の前にある物が何かわからない(視覚失認)
・家族の顔が誰かわからない(相貌失認)
・チャイムなど聞こえている音が何の音かわからない(聴覚失認)
否定・訂正・現実を突きつける
「それは○○でしょ」「見ればわかるでしょ」と家族側の認識を押し付けると、本人は強い不安や恐怖を抱いてしまいます。

 

💡【失認を支えるヒント】
別の感覚(五感)を使ってみる

失認の大きな特徴は、「そのものの記憶(概念)が消えてしまったわけではない」 という点です。
特定の感覚の回路がうまく働いていないだけなので、別の感覚を使うとパッと認識できることがよくあります。

  • 目で見て道具がわからない時(視覚失認):
    実際に手で触ってもらうと「ああ、ハサミか」とわかる。
  • 顔を見て誰かわからない時(相貌失認):
    いつもの声で「お母さんだよ」と話しかけると、声を聞いて「なんだ、お母さんね」とわかる。

「見ればわかるでしょ」と視覚情報だけで押し通すのではなく、「触ってもらう」「声を聴いてもらう」など、今しっかり働いている別の感覚を入り口にすることで、本人の安心と理解を引き出すことができます。

家族が正論や訂正を重ねてしまうのは、
「安全に過ごしてほしい」「間違えさせたくない」という愛情の裏返しです。

やってしまった自分を責める必要は全くありません。
まずは「脳のエラーの違い」を知ることが、関わり方を変える第一歩になります。

 

お互いが安心できる「3つの基本ルール」

症状は見え方が違っても、脳内では共通して
「一度に処理できる情報量が減り、つなげて考えることが難しくなっている」という変化が起きています。

そのため、以下の3つの基本軸を持つだけで、日常は少しずつ落ち着いていきます。

  1. 情報を減らし、単純な構造にする
    「これ片づけたら手を洗って、ご飯ね」よりも、
    「これを置きます」「手を洗います」と、一つずつ短く区切って伝えましょう。
    説明を足すのではなく、「削る」発想がポイントです。
  2. 今ある「残された力」に目を向ける
    すべてが一度に失われるわけではありません。
    話すのが難しくても「うなずき」はできる、手順は混乱しても「動作の一部」はできるなど、
    今できることに注目し、それを守る関わり(パーソン・センタード・ケア)を心がけましょう。
  3. 声かけより「迷わない環境」を先に作る
    その場で判断・予測させる状況を減らします。
    物の置き場所を固定する、動線をシンプルにするなど、
    環境を整えることで、家族の声かけ(指示出し)も自然と減り、お互いのストレスが大きく軽減されます。

 

医療や社会資源につなぐ、介護者を守るための目安

工夫を重ねても、家庭だけで支えきれなくなるタイミングは必ず訪れます。

それは家族の努力不足ではありません。
以下のようなサインが重なってきたら、介護のフェーズを次へ進める時期です。

  • 安全面の不安: 道に迷う、危険の判断ができず転倒リスクが高まる
  • 生活の乱れ: 昼夜逆転、食欲低下、強い拒否や怒りが見られる
  • 介護者の限界: 常に気を張って眠れない、自分を責めてしまう、孤立感がある

医療機関や介護サービス(ケアマネジャー等)を頼ることは、あきらめでも悪化の証明でもありません。

本人の尊厳を守り、そして何より介護するあなた自身が壊れずに関わり続けるための前向きな選択です。

認知症があっても、その人がその人でなくなるわけではありません。

言葉や動作が不器用になっても、安心できる環境と関わりがあれば、
穏やかな時間を共に過ごすことは十分に可能です。

一人で抱え込まず、専門職と支え合う輪を広げていきましょう。

 

医療機関や介護サービス(ケアマネジャー等)を頼ることは、あきらめでも悪化の証明でもありません。

本人の尊厳を守り、
そして何より介護するあなた自身が壊れずに関わり続けるための前向きな選択です。

 

📝 受診時に伝えると役立つポイント(準備メモ)

いざ診察室に入ると、焦ってしまいうまく伝えられないことがよくあります。

完璧である必要はないので、
以下の4つのポイントを箇条書きでメモして持参すると、診察がとてもスムーズになります。

① 症状の経過

  • いつ頃から気になり始めたか
  • 具体的にどんな場面で困っているか(例:「服の着方がわからなくなった」など)

② 日常生活への影響と安全面

  • 食事・着替え・会話・外出などで以前と変わったこと
  • 転倒や迷子など、安全面でヒヤッとしたエピソード

③ 体調や生活リズムの変化

  • 食事量、睡眠の様子(夜眠れているか)
  • 現在飲んでいる薬があれば、お薬手帳

④ 介護するご家族の状況(※とても重要です!)

  • 介護の負担感、夜眠れているか、休めているか
  • 「もう限界に近い」「怒ってしまうことが増えた」といったSOS

💡【ポイント】自分のSOSも立派な「受診理由」です
医師や専門職は、「ご本人の状態」と同じくらい「ご家族がどれくらい疲労しているか」を重視してケアの方針を立てます。
「こんなこと言っていいのかな」と遠慮せず、ご自身の限界や辛さも必ず伝えてくださいね。

認知症があっても、その人がその人でなくなるわけではありません。
言葉や動作が不器用になっても、安心できる環境と関わりがあれば、穏やかな時間を共に過ごすことは十分に可能です。
一人で抱え込まず、準備メモを片手に、専門職と支え合う輪を広げていきましょう。

 

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