アルツハイマー病とうつ病の意外な共通点「脳の炎症」とは?〜最新知見とミクログリアの秘密〜 

今日は、アルツハイマー病とうつ病についてのお話です。

ここ最近、アルツハイマー病の分野では「レカネマブ」などの新しい薬が登場し、大きなニュースになっていますよね。

「レカネマブ」は、
脳内の原因物質を直接取り除く画期的な薬ですが、
実は私たちの脳には、もともと優秀な「お掃除屋さん」が存在しています。

それが今回の主役です。

 

まずはアルツハイマー病の簡単な復習から

アルツハイマー病は認知症の中でもっとも有名な病気で、
進行性に記憶力や思考力がゆっくりと障害されていき、
最終的には単純な作業も難しくなってしまいます。

脳の中で何が起こっているかというと、
「アミロイドβ(ベータ)」という一種の老廃物(ゴミ)がたまり、
それによって神経細胞が傷つき、死んで減ってしまうのです。

そして恐ろしいことに、このアミロイドβの蓄積は、
アルツハイマー病が発症する20~30年も前から水面下で始まっていることがわかっています。

 

脳の優秀な裏方スタッフ「ミクログリア」

脳の細胞というと、
情報伝達を行う「ニューロン(神経細胞)」が主役として注目されがちです。

しかし、脳にはニューロンの10倍以上もの「グリア細胞」が存在しています。

ニューロンが舞台に立つ俳優だとすれば、
グリア細胞は舞台環境を整え、裏から支える優秀なスタッフたちです。

そのグリア細胞の一種である「ミクログリア」は、
脳内をパトロールし、
溜まったアミロイドβをパクパクと食べて取り除いてくれる(お掃除してくれる)
とても重要な働きを持っています。

 

アルツハイマー病と「うつ病・孤独感」の深い関係

ここで興味深い過去の研究報告をご紹介します。

以前から「うつ病はアルツハイマー病発症のリスクファクターである」ということは知られていました。

さらに研究が進み、
大脳皮質にアミロイドβの沈着がある人ほど、
孤独感や寂しさを強く感じており、その後の経過で抑うつ症状が悪化しやすい

ということが報告されています。

「アミロイドβがたまっているから、よりいっそう不安や孤独を感じるのか」、
あるいは「不安や孤独といった精神的ストレスがあるから、アミロイドβがたまりやすくなるのか」、
因果関係のすべては分かっていません。

しかし、この二つには明確な相関関係があるということです。

 

共通の引き金は「脳の慢性炎症」

ここから導き出されるのが、
アルツハイマー病とうつ病には「共通する病態」があるのではないか、
という仮説です。

その正体こそが、「慢性炎症」です。

本来なら脳の優秀なお掃除屋さんであるミクログリアですが、
強いストレスや加齢、生活習慣の乱れなどが続くと、
過剰に反応して「暴走」してしまうことがあります。

すると、健康な細胞まで攻撃してしまい、
脳内に持続的な「慢性炎症」を引き起こしてしまうのです。

この神経の炎症が、
うつ病の引き金になったり、
アミロイドβの蓄積(アルツハイマー病の進行)を加速させたりすると考えられています。

 

今日からできる!脳を守るための生活習慣

論文では、このミクログリアを保護し、
機能を正常に保つような治療薬の登場に期待が寄せられていましたが、
お薬に頼る前に、私たち自身でできるアプローチがあります。

それが日頃の「生活習慣の改善」です。

近年注目されている知見も踏まえると、以下の3つが特に重要になります。

  • 質の高い睡眠(脳のゴミ出し)
    最近の研究で、深い睡眠をとっている間に脳内の老廃物(アミロイドβなど)が洗い流されるシステムが活発になることが分かっています。ミクログリアの働きを助け、脳をクリーニングするためにも、睡眠は最強の薬です。
  • 腸内環境を整える食事(脳腸相関)
    腸内環境の乱れは、全身に「慢性炎症」を引き起こし、それが脳へ波及してミクログリアを暴走させる原因になります。食物繊維や発酵食品を取り入れ、腸を整えることが直接的に脳を守ることにつながります。
  • 適度な運動とストレスケア
    運動は脳の血流を良くするだけでなく、強力なストレス発散になります。「孤独感」がリスクになるからこそ、誰かと散歩をしたり、社会との繋がりを持ったりして心をケアすることも、立派な認知症・うつ病予防です。

不安や孤独を感じることは誰にでもありますが、
それを一人でため込まずに生活のペースを整えることが、
結果的に自分の脳を一生守ることにつながります。

まずは「よく眠り、美味しく食べ、少し動く」といった基本から見直してみませんか?

 

参考・引用文献

  • 日本生物学的精神医学会誌 32巻1号「新規治療標的としてのグリアの可能性」
  • Depression and risk for Alzheimer disease:systematic review, meta-analysis, and metaregression analysis. Arch Gen Psychiatry, 63:530-538.
  • Donovan NJ, Okereke OI, Vannini P, et al(2016) Association of higher cortical amyloid burden with loneliness in cognitively normal older adults. JAMA Psychiatry, 73:1230-1237.
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